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東京高等裁判所 平成8年(う)1434号 判決 1998年3月26日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

一  本件控訴の趣意は、弁護人藤原寛治作成名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官松本二三雄作成名義の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。

二  控訴趣意第一の一(原判示第一の事実に係る事実誤認の主張)について

1  所論は、要するに、次のようなものである。すなわち、原判決は、罪となるべき事実第一として、被告人が、Bらとの間で、Cが抵抗した場合は同人を殺害してでも金品を強取することを共謀の上、平成五年一〇月二七日午後一〇時四〇分ころ、同人方に押し入り、同人の胸部及び左大腿部を所携の包丁などで突き刺し、よって、その場で、同人を左大腿動・静脈切断による失血により死亡させて殺害した上、同人が所有又は管理する現金約一四〇〇万円及び腕時計など四点在中の耐火金庫ほか一点(時価合計約一六〇五万円相当)を強取したとの事実を認定判示している。しかしながら、右犯行に際し、被告人は、Cに対する殺人の故意がなく、強盗致死罪の責任を負うにとどまるのであるから、強盗殺人罪の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実認定の誤りがあるというのである。

2  そこで、原審記録を調査して検討すると、原判決挙示の原判決第一の事実に係る関係各証拠によれば、原判決が罪となるべき事実第一として認定判示するところは、被告人とBらとの間の共謀や被告人の殺意の点を含め、全て正当として是認することができ、原判決が「補足説明」第一の項で説示するところも、概ね正当として維持することができるのであって、原審で取り調べたその余の証拠及び当審における事実取調べの結果を合わせて検討しても、原判決には所論のような判決に影響を及ぼすことが明らかな事実認定の誤りはない。以下に若干補足して説明する。

3  まず、関係各証拠によれば、被告人が、平成五年一〇月二七日午後一〇時四〇分ころ、滋賀県八日市市《番地略》所在のC’ことC(当時五三歳)方玄関から、B並びにD及びE(いずれも男性)と一緒に、金品強取の目的で、Cやその家族の住居であるC方に不法に侵入し、Aが、Cにけん銃を突き付け、続いて、一階居間において、四人掛かりでCを仰向けに押し倒し、さらに、Dが、所携の果物ナイフでCの左側胸部を一回突き刺し、被告人が、所携の包丁でCの右大腿部を一回突き刺すなどし、その結果、そのころ、同人を左大腿動・静脈切断による失血のため死亡するに至らせた上、被告人らが、Cの着衣や室内を物色するなどして、Cの着ていた上着のポケットから同人所有の現金約一六〇万円、同人の着けていた同人所有のベルトバックル一個(時価約五〇万円相当)並びに同人所有又は管理の現金約一二四〇万円及び腕時計など物品四点在中の耐火金庫一個(物品時価合計約一五五五万円相当)を奪い取り強取したこと、なお、被告人らとともに自動車に乗って、C方前までやって来ていたFが、その間、C方近くに止めた右自動車内で見張りを行っていたことは、優に是認できる。

4(一)  そこで、被告人が、Cから金品を強取するに際し、同人を殺害する意思を抱いていたかどうか、また、その前提として、共犯関係に立つBらとの間でその旨の共謀を遂げていたかどうか検討するに、本件犯行に至る経緯ないし共犯者間の話合いの状況、本件犯行の具体的状況など事実経過については、被告人を含め関係者らの供述は、若干の食い違いはあるものの、概ね一致している。そして、Bの検察官に対する平成六年四月五日付け、同月六日付け、同月二一日付け及び同月二八日付け各供述調書(原審検察官請求証拠番号乙第二五号ないし第二八号。以下、甲乙の番号は、原審検察官請求証拠番号を示す。)、Fの検察官に対する同月四日付け、同月五日付け、同月六日付け及び同月二一日付け各供述調書(甲第二八一号ないし第二八四号)、Gの検察官に対する供述調書(甲第二八五号)並びに被告人の捜査段階及び原審公判廷における供述と、客観的状況に関する関係各証拠を総合すると、次のような事実が認定できる。すなわち、

(1) 本件強盗の犯行計画は、Bが、暴力団関係の知り合いであるFらと相談して立てていたものであったこと

(2) 被告人は、かつて自分と愛人関係にある女性の営む飲食店に暴力団絡みの問題が生じた際、世話になったことのある暴力団組員のGから、平成五年九月ころ、Bを紹介されていたが、同年一〇月二四日ころ、Bから、Gを通じて、本件強盗の犯行に加わるよう誘いを受けたこと、なお、被告人は、Aという名前を使っており、また、日本人と日本語で言葉を交わすことについて、さほど不自由はなかったこと

(3) 被告人は、更にBから、仲間に加えるため、いわゆる外国人二人を連れて来るようにという指示を受けたので、Dと名乗る中国系マレーシア人と連絡を取り、翌二五日、同人及び同人が連れて来たEと名乗る中国系マレーシア人と出会い、Dにおいては、急用ができたことからいったん立ち帰ったものの、被告人がEを連れてBと落ち合ったこと

(4) そして、被告人は、埼玉県川口市所在のサウナなどにおいて、Bから、強盗に入る相手が関西の金融業者で、金庫の中に三、四千万円の現金があり、けん銃と包丁で相手を脅し金庫を開けさせて現金を奪うこととなるなどという強盗の計画の概要の説明を受けたこと、その際、Eが、「相手の男を殺してもいいのか」などと質問したのに対し、Bは、「相手が大きい声を出したり、暴れたりしたら、殺すのもしょうがない」と答えたこと、なお、EとBとの間の右のような質問と答えは、Eが日本語に通じていなかったことから、被告人の通訳を介して行われたものであったこと

(5) 被告人は、翌二六日、Bの運転する自動車で名古屋市に向かうことになり、Eと一緒に右自動車に乗り、途中でF及びDと落ち合い、同人らも乗って、同日午後三時ころ、同市所在のGの住むH方に赴いたこと、そして、被告人は、右H方において、DやEらとともに、Bから、これから犯行に赴くC方の金庫の位置などについて説明を受けた上、「おれが先に飛び込んでチャカでビビらす。Fは見張りなので、他の人間は包丁を持って脅せ。そうしておいて縛り上げたらいい。」などと、役割分担の指示を受けたこと

(6) 被告人、B、F、D及びEは、同月二七日午後五時ころ、右自動車に乗ってH方を出発し、滋賀県八日市市に向ったが、出発に際し、H方台所にあった包丁一丁(刃体の長さが約二〇センチメートル、柄を含めた全体の長さは約三〇センチメートルのもの)及び果物ナイフ一丁を持ち出し、さらに、途中で知り合いの者と出会って、Fが手配を顔んでいたけん銃一丁などをその者から受け取ったこと

(7) 被告人ら五名は、同日午後一〇時過ぎころ、前記C方付近に到着し、同人が不在の様子であったため、右自動車内で同人の帰宅を待ったが、その間に、Eが、Bに、「相手が暴れたり、人が来そうになったら、殺してもいいか」などと改めて尋ね、これに対し、Bが、「相手がおとなしく金を出したら殺さない。もし大きい声を出したり暴れたりしたら殺すしかない。その時は包丁で刺してしまえ。」などと答え、さらに、Fも、「しょうがない」などと言って、Bの答えたことに同調する態度を示したこと、なお、こうした言葉のやりとりに関しては、被告人は、Eらとの関係では、通訳の役割を果たしていたこと

(8) 被告人らは、同日午後一〇時四〇分ころ、Cが帰宅したのを確認した後、Bが前記けん銃と包装紙に包んだクッションを、被告人が前記包丁を、Dが前記ナイフを、Eがガムテープ及び麻紐をそれぞれ持って、C方に向かったこと、Fは、計画どおり、見張りとして右自動車内に残ったこと

(9) 被告人らは、Bが、右包装紙に包まれたクッションを小脇に抱え、Cの内妻からの預かり物を届けに来たように装って、Cに玄関ドアの錠を開けさせて玄関内に入り、Cに右けん銃を突き付け、続いて、被告人、D及びEが玄関内に入って、Cを一階居間に連れ込み、四人掛かりでCを布団の上に押し倒したりしたこと

(10) そして、被告人らは、Bが、被告人らによって押さえ付けられているCに対し、けん銃を突き付けながら、金庫の鍵の在りかや金庫の錠を開けるための暗証番号を言うように迫ったものの、Cには、大声を出されて暴れられたりするだけで、同人に金庫を開けさせることができず、そのため、Bが、DにCを刺すように命じ、Dが右ナイフでCの左側胸部を一回突き刺したが、Cがなおも暴れるだけで金庫を開けようとしなかったため、Bが、被告人に対し、「A、お前刺せ」と指示するに至り、これに応じて、被告人が、Cの正面を向き、その両足の上に乗った姿勢で、左腕で同人の両膝付近を押さえながら、右手で右包丁を逆手に握って、Cの左大腿部を一回突き刺したこと

(11) Cは、左側胸部及び左大腿部に大きな創傷を負ったが、それらのうち、左側胸部の創傷は、傷口が、腋窩から約二一センチメートル下の後腋窩線上を前端とし、後ろやや上に向かう長さ約三・五センチメートル、幅約一・三センチメートルのもので、横隔膜を切損し、腹膜腔や下行結腸の粘膜面に達する、深さ約五センチメートルのものであったこと、また、左大腿部の創傷は、傷口が、左膝蓋骨上端から約一九センチメートル上で約四・五センチメートル内側の部位を左端とし、右やや下に向かって走る長さ約四・三センチメートル、幅約一・一センチメートルのもので、大腿四頭筋を切損し、大腿動脈及び静脈を完全に切断する、深さ約一〇センチメートルに達するものであったこと、Cの死因は、左大腿動・静脈切断による失血死であったこと

(12) 被告人らは、Cが左大腿部から多量に出血し、全く動かずに横たわっているのを見ながら、同人の着ていた上着のポケットから現金約一六〇万円及び同人の着けていたベルトバックル一個(時価約五〇万円相当)を奪い取ったほか、同人方を物色し、同人が所有又は管理する現金約一二四〇万円及び腕時計など物品四点在中の耐火金庫(時価合計約一五五五万円相当)を、同人方の外で見張りをしていたFも加わった五人で運び出し、それを被告人らが乗って来ていた右自動車のトランクに積み込み、その場から逃走したこと

などの事実が認定できる。

(二)  そして、右(一)認定の各事実を総合すると、まずもって、右(一)の(4)ないし(7)認定のような、本件強盗の計画を立てたBやFと、被告人、D、Eらとの話合いの状況や、被告人らがC方に携えていった兇器などに照らし、被告人らが、C方近くに止めた自動車内で、同人の帰宅するのを待っていた時点では、被告人、B、D、E及びFの間で、Cから金品を強取するに当たり、同人が抵抗したり、指示に従わないような態度を取ったりした場合には、同人を殺害してでも金品強取の目的を遂げようという趣旨の共謀が成立していたことは、十分に肯認できる。

さらに、被告人がCの左大腿部を包丁で突き刺した際の状況をみても、前記(一)の(10)認定のように、Cが押さえ付けられた上、Bにけん銃を突き付けられて脅迫されたにもかかわらず、金庫を開けることを拒絶したり、大声を出して暴れたりし、更に一回、Dが、Bの指示に従ってナイフでCの左側胸部を突き刺したにもかかわらず、Cがなおも暴れるだけで金庫を開けようとしなかったため、Bが、「A、お前刺せ」という指示を出し、被告人がこの指示に応じたというものであることに照らすと、まさにその時点では、被告人らが、右のように事前の共謀の際に想定していた、Cを殺害してもやむを得ない状況が生じていたことが認定できるのである。加えて、被告人がCの左大腿部を包丁で突き刺した行為自体をみても、突き刺したのは一回とはいえ、前記(一)の(11)認定のとおり、左大腿四頭筋を切損し、大腿動脈及び静脈を完全に切断する、深さ約一〇センチメートルに達するという致命傷を負わせたものであって、その行為の際に被告人の加えた力が極めて大きかったことが窺われるのである。すなわち、被告人の右のような行為態様自体から、被告人は、その際、右共謀に基づき、Cを殺害するほかなしと考えて、Cの左大腿部を包丁で力一杯突き刺したものと窺うことができるのである。

5(一)  また、被告人は、検察官に対する平成六年四月二一日付け供述調書(乙第三〇号)中で、次のように、Cに対し確定的殺意をもって右刺突行為に及んだことを認める趣旨の供述をしている。すなわち、DがC’さんを刺した後も、Bは、C’さんに「鍵どこだ。金庫開けろ。」と言っており、その後、どこかで金庫の鍵を見付けてきて、C’さんに金庫のダイヤルの番号を聞き出そうとしていた。それでも、C’さんが暴れるだけで返事をしなかったので、Bは怒り出してしまった。そして、私は、Bに「A、お前刺せ」と言われたが、Bが私に言った「刺せ」という意味は、C’さんを殺してしまえという意味だと思った。なぜかというと、Dが一回刺してもC’さんは金を出そうとしなかったからである。それで、Bは、それ以上いくら言っても駄目だとあきらめ、私に「C’さんを殺してしまえ」と命令したのだと思った。私は、C’さんが金を出さないなら、C’さんを縛り上げて金庫だけ持って逃げたらよいと思っていた。しかし、Bから「殺せ」と命令されたので、こうなったら殺すしかないと思い、腹をくくった。そこで、C’さんはまだ暴れていたが、C’さんの足の上に乗り、左腕でC’さんの両膝付近を押さえながら、C’さんの左足の太股の内側を一回突き刺した。被告人は、捜査段階において、以上のような趣旨の供述をしている。

(二)  もっとも、被告人は、原審公判廷における供述中で、Cに対し殺意を抱いていたことを否認し、次のような供述をしている。すなわち、DがC’さんを刺した後も、Bは、C’さんに「鍵はどこ、金を出せ」と二、三回言っており、返事がなかったので、オフィスに鍵を探しに行った。その後、Bは、どこかで金庫の鍵を見付けてきて、C’さんに金庫の暗証番号を聞き出そうとしていた。それでも、C’さんが大声を出したり大暴れしたりして抵抗していたので、Bは怒り出してしまった。そして、私は、Bに「A、お前も刺せ」と言われ、二、三回同じことを言われ、最後は怒られて刺した。私の気持ちとしては、Dと同じように、相手を脅かして何とか金を出すようにさせようというつもりだった。私は、C’さん方に押し入る直前にBらと話し合い、相手が大声を出したり抵抗したりした場合は殺すしかないとの結論になったが、相手を殺したり怪我をさせたりということはなるべくしないように行動しようと考えた。私は、Bから「刺せ」と言われたが、殺せという意味だとは思わず、Dと同じようにC’さんを痛め付けて、暗証番号を話してもらおうというつもりで命令されたと思った。私は、Dが刺した所は脇腹だったし、私が刺した所は大腿部なので、両方とも致命的な所ではなく、C’さんが死んだとは思わなかった。被告人は、原審公判廷においては、以上のような趣旨の供述をしている(被告人は、当審公判廷における供述中でも、ほぼ同趣旨の供述をしている。)。

(三)  そこで、前記(一)掲記の被告人の捜査段階の供述と、右(二)掲記の被告人の公判段階の供述と対比して、その信用性について考えるのに、被告人の公判段階における右供述は、前記3及び4認定の事実経過や客観的事実に符合しない不自然なものである。すなわち、前記4(二)でみたとおり、被告人、B、D、E及びFの間で、Cから金品を強取するに当たり、同人が抵抗したり、指示に従わないような態度を取ったりした場合には、同人を殺害してでも金品強取の目的を遂げようという趣旨の共謀が成立していたことや、被告人がCの左大腿部を包丁で突き刺した際の状況が、被告人らにおいて事前の共謀の際に想定していた、Cを殺害してもやむを得ない状況にまさに当たるものであることなどと、被告人の公判段階における右供述とは符合しない。さらに、被告人がCの左大腿部を包丁で突き刺した行為自体をみても、突き刺したのは一回とはいえ、大腿動脈及び静脈を完全に切断する、深さ約一〇センチメートルに達するという致命傷を負わせたものであって、被告人の加えた力が極めて大きかったと窺われることや、また、被告人の右のような行為態様自体から、被告人が、その際、右共謀に基づき、Cを殺害するほかなしと考えて、Cの左大腿部を包丁で力一杯突き刺したものと窺えることなどとも、被告人の公判段階における供述は、矛盾しあるいは符合しない不自然なものである。したがって、結局、被告人の公判段階における右供述は、これを信用することが著しく困難である。

これに対し、被告人の捜査段階における前記自白は、それ自体、自然な流れに沿うものである上、前記3及び4で検討した結果に照らし、被告人の公判段階における供述について今みたのとまさに反対の意味で、右自白を十分信用できる根拠があるということができるのである。

なお、所論は、前記(一)掲記の被告人の検察官に対する供述調書中で、被告人がCを殺害することを決意した際の心境について、「腹をくくった」という特殊な表現が用いられていることは、その記載が捜査官側の作文であることを示すものであって、信用性に疑問があるというのである。しかしながら、被告人は、これまでにみてきたとおり、相当程度に日本語が堪能であったことが明らかである上、検察官に対する供述調書中で、「腹をくくる」という日本語を「決心する」という意味であると十分に理解し、かつ、自分でも時々用いることがある旨を明確に認めているのであって、右所論は、その前提を欠き、採用する余地がない。

(四)  以上のとおり、前記4認定の客観的な事実経過に、前記(一)掲記の被告人の捜査段階における供述を総合すれば、被告人は、Bから「A、お前刺せ」と指示されて、Cの左大腿部を所携の包丁で力一杯突き刺した際、被告人としても、Cが抵抗したりした場合には、同人を殺害してでも金品強取の目的を遂げようという趣旨の事前の共謀に基づき、Cを殺害するのもやむなしとの意思で、右刺突行為に及んだことが優に肯認できるのである。

6  以上から結局、原判決挙示の原判示第一の事実に係る関係各証拠を総合すれば、原判決の認定判示する罪となるべき事実第一は、被告人が、Bらとの間で事前に、Cが抵抗した場合にはCを殺害してでも金品を強取しようとの共謀を遂げていたことや、被告人が本件刺突行為に及んだ際、被告人に確定的な殺意があったことを含め、全て合理的な疑いを越えて認定することができるのであって、原審で取り調べたその余の証拠及び当審における事実取調べの結果を合わせて検討しても、原判決には所論のような判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認はない。論旨は、理由がない。

三  控訴趣意第一の二(原判示第二の事実に係る事実誤認の主張)について

1  所論は、要するに、次のようなものである。すなわち、原判決は、罪となるべき事実第二として、被告人が、B、Dらとの間で、Iを殺害して金員を強取することを共謀の上、平成五年一二月一〇日午後四時五〇分ころ、有限会社丙川商事の事務所に押し入り、Iに対し、所携の包丁でその右大腿部及び右胸部を数回突き刺し、同人を殺害して、同人から金員を強取しようとしたが、金員を強取するに至らず、同人に入院加療約二か月間を要する肝刺創及び右大腿刺創の傷害を負わせたにとどまり、同人を殺害する目的を遂げなかったとの事実を認定判示している。しかし、右犯行に際し、被告人にはIに対し殺人の故意がなかったのであるから、強盗殺人未遂罪の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実認定の誤りがあるというのである。

2  そこで、原審記録を調査して検討すると、原判決挙示の原判示第二の事実に係る関係各証拠によれば、原判決が罪となるべき事実第二として認定判示するところは、強盗殺人未遂罪の成立を認めた点を含め、全て正当として是認することができ、原判決が「補足説明」第二の項で説示するところも、概ね正当として維持することができるのであって、原審で取り調べたその余の証拠及び当審における事実取調べの結果を合わせて検討しても、原判決には所論のような判決に影響を及ぼすことが明らかな事実認定の誤りはない。以下に若干補足して説明する。

3  まず、関係各証拠によれば、被告人が、平成五年一二月一〇日午後四時五〇分ころ、東京都足立区《番地略》所在の金融業を営む有限会社丙川商事の事務所において、Dとともに客を装い、同事務所を看守していた同社の取締役であるI(当時五六歳)に玄関ドアを開けさせて、金員強取の目的で、不法に同事務所内に侵入し、その直後、Dが、Iの背後から、所携の文化包丁でIの右大腿部の後ろ側を二回突き刺し、さらに、振り向いた同人の右胸部を二回突き刺したが、同人に騒がれたりしたため、金品を奪い取ることなく、被告人及びDがともどもその場から逃走し、その際、右刺突行為により、Iに対し入院加療約二か月間を要する肝刺創及び右大腿刺創の傷害を負わせた事実は、優に肯認できるのである。

4(一)  そこで、DがIに対し刺突行為に及んだ際、被告人が、Iを殺害する意思を抱いていたかどうか、また、その前提として、共犯関係に立つD、更にはBらとの間でその旨の共謀を遂げていたかどうか検討するに、関係各証拠によれば、被告人らが、Iを襲って傷害を負わせるに至るまでの事実経過は、次のようなものであったことが認められる。すなわち、

(1) 被告人は、Bから、滝野川信用金庫扇支店の現金輸送車を襲撃する計画に加わるよう求められ、被告人が現金輸送車から降りた警備員をけん銃で撃ち、Dが現金を奪い取った後、近くで待機するB運転の自動車に乗って逃げるなどという具体的な計画を告げられていたこと、そして、被告人は、平成五年一二月一〇日朝方、Bから本日この計画を実行するという連絡があって、東京都足立区所在の右支店近くに出掛け、Bからけん銃を受け取って、同人やDとともに現金輸送車の到着を待っていたが、実際に現金輸送車が到着した際、近くに通行人らがいたことなどから、右計画を実行に移すことができなかったこと

(2) その後、被告人は、BやDと一緒に昼食をとるなどしたが、その際、Bから、現金輸送車への襲撃を断念する代わりに、自分の知る金融業者の事務所では、夕方になると、六〇歳くらいの男性一人がいるだけになるので、この事務所を襲って現金を奪い取ろうという話を持ち出され、同日午後、Bに連れられて同区《番地略》所在の有限会社丙川商事の事務所の下見をした後、銭湯に行くなどして時間を潰し、同日夕方、右事務所付近に立ち寄り、BやDと一緒に右事務所の様子などを窺い、右事務所内は右六〇歳ぐらいの男性一人だけになっていると思われたことから、早速に右計画を実行に移すことにしたこと

(3) 被告人らは、その際、右事務所近くに止めた自動車内で話し合っていたが、被告人及びDは、Bから、「Aは日本語がうまいから、車検証を持ってきたなどと言って、じじいに玄関を開けさせろ。Dは、中に入ってすぐにじじいを包丁で刺せ。Aは、金庫を開けて金を奪って来い。」などという指示を受け、被告人においては借金の申込みに来た客を装うための車検証のカバーを渡され、Dにおいては右自動車の助手席の下に置いてあった文化包丁(刃体の長さが約二一センチメートル、柄を含めた全体の長さは約三三センチメートルのもの)を渡されたこと、また、Bから、同人としては見張りを担当するので、右事務所から少し離れた工事現場に右自動車を止めて待っているという趣旨のことを告げられたこと

(4) 被告人は、同日午後四時五〇分ころ、Bを見張りとして右自動車内に残し、Dと一緒に右自動車を降りて右事務所の玄関前に至り、借金の申込みに来た客を装って、右事務所内にいたIに玄関ドアの鍵を開けさせ、Dともども右事務所内に立ち入ったこと

(5) その直後、Dは、被告人らに背を向けて右事務所の奥に向かって歩き始めたIに対し、いきなりその背後から、前記文化包丁で、同人の右大腿部の後ろ側を二回突き刺し、さらに、右手に持った右文化包丁を右腹切りに構え、勢いよく体当たりをするようにして、振り向いた同人の右胸部を二回突き刺したこと

(6) 被告人は、Iが大声で悲鳴を上げるのを聞き、また、右事務所の二階で人の足音がしたように思えたことから、Dに対し、北京語で、「D、早く逃げろ」などと言って、自分も右事務所内で金員を奪い取ったりすることなく、Dとともに右事務所から逃げ出し、Bが近くに止めて待機していた前記自動車に乗り込んだこと、その後直ちに、被告人らは、Bが、右自動車を発進させて、その場から逃走したこと

(7) Iは、Dに右文化包丁で突き刺された結果、右胸壁部に、肝臓に達する深さ約八センチメートルの刺創及び胸腔に達する深さ約三センチメートルの刺創各一個を、また、右大腿後部に、筋肉に達する深さ約三センチメートルのものを含む刺創二個を負い、約二か月にわたる入院加療を要したが、生命を失うには至らなかったこと

などの事実が認定できる。

(二)  以上みたところに照らすと、Dは、前記(一)の(3)、(5)及び(7)認定のように、刃体の長さが約二一センチメートルの文化包丁で、Iに対し、いきなりその背後から、同人の右大腿部の後ろ側を二回突き刺し、さらに、右手に持った右文化包丁を右腹辺りに構え、勢いよく体当たりをするようにして、振り向いた同人の右胸部を二回突き刺し、その結果、同人に肝臓に達する深さ約八センチメートルの刺創や胸腔に達する深さ約三センチメートルの刺創などを負わせているのである。そして、右のようなDが右攻撃において用いた凶器の形状、攻撃を加えた部位が人体の枢要部であること、攻撃の加えた力の強さや執拗さその他攻撃の態様、さらには、Iにおいて全く予想していない状況のもとで、突然に背後から攻撃を加えていること、その結果同人に生命を失わせかねない重い傷害を負わせていることなどに照らすと、こうした客観的状況自体から、Dには、右刺突行為に及んだ際、Iを殺害する意図があったことが十分に窺えるのである。

さらに、右のように、Dの行ったIに対する刺突行為の具体的態様その他客観的状況に照らし、Dには、Iを殺害する意思があったと窺えることに加え、前記(一)の(1)及び(2)認定のような、丙川商事の事務所における強盗を企てるに至った経過、本件当日に断念した現金輸送車からの現金強奪計画の内容、同(3)認定のような、被告人やB、D間の本件強盗に係る具体的な話合いの状況、とりわけ、Bの被告人らに対する指示が「Dは、中に入ってすぐにじじいを包丁で刺せ。Aは、金庫を開けて金を奪って来い。」などというものであったことなどを合わせ考えると、被告人、B及びDが、本件犯行直前に、丙川商事の事務所近くに止めた自動車内で話し合った際、被告人らの間で、丙川商事の事務所に立ち入った後、事務所に一人でいるはずの六〇歳くらいの男性(I)を殺害して、金員を強取しようという趣旨の共謀が成立していたことも十分に窺うことができるのである。

(三)  しかもこの点、Bは、丙川商事の事務所における強盗を企てた際の自分の気持ちについて、検察官に対する平成六年六月一三日付け供述調書(乙第三三号)中で、次のような供述をしている。すなわち、私は、丙川商事の事務所に入ってからのことについては、Aに任せたものの、おそらくデブ(D)は、その事務所の中にいるIさんを包丁で刺して殺してしまうことになるだろうと思っていた。人のいる事務所に押し入って金庫の中の金を奪おうという計画だから、相手を殺さないでやるということはとても難しいし、まして、相手は暴力団の親分の経営する金融屋ということなので、おとなしく金を出すとはとても思えなかった。また、捕まらないように逃げなければならないので、そのためにも、相手を殺してしまうのが一番簡単である。現に、私とAとデブは、滋賀の事件で人を一人殺しており、この日の朝に計画していた扇支店の件も、相手をけん銃で撃ち殺すなどして現金を奪うというものであり、もう私たちにとっては、相手を殺すということにほとんど抵抗はなかった。Bは、右供述調書中で、以上のような趣旨の供述をしている。そして、Bの右供述は、被告人らの共謀の内容が、前記(二)でみたように、Iを殺害して金員を強取しようという趣旨のものであったと窺われることにつき、これを裏付けるものということができるのである。

5(一)  また、被告人も、検察官に対する平成六年六月一二日付け供述調書(乙第三五号)中で、Bらとの間で、丙川商事の事務所で金員を強取するに際しても、Iを殺害するという共謀が成立していたという趣旨の供述をしている。すなわち、兄さん(B)は、そのじいさんを刺せと私や「D」に指示したわけだが、滋賀の事件でC’さんを襲ったときにも、結局は、兄さんは、私たちにC’さんを殺させたし、その日の朝、現金輸送車を襲うときにも、私にけん銃で警備員を撃ち殺せと指示していた。それまでの経験で、兄さんは、人を殺すことを何とも思っていないので、私は、兄さんが刺せと言えば、刺し殺すことだと思っていた。また、現実に、金融屋の事務所に入って、金庫から金を取り出さなければならないから、鍵を見付ければ金庫は開くとしても、当然、そのじいさんが、金を奪われまいとして騒いだり、抵抗したり、事務所から逃げ出したりすれば、金庫から金を運び出すことはできないと思った。私は、このように、兄さんが私や「D」に刺せと指示しているのは、刺し殺せという意味だと理解した。私は、「D」も、滋賀の事件でC’さんを殺す現場にいたし、その日の朝も私と一緒に行動していたので、兄さんの指示を聞いて、その金融屋の中にいるじいさんを殺せと指示されていると理解したと思った。私も、金が欲しくて兄さんと一緒に強盗をすることに決めていたので、人を殺して強盗をすることに嫌な思いはあったが、やるしかないと思い、兄さんに黙って肯いて、兄さんの話に同意した。「D」も、私の態度を見ており、私がその金融屋のじいさんを殺してでも金庫を奪い取るつもりでいることは、分かったと思う。兄さんも、私の返事を聞いて肯いていたので、私が兄さんの指示に従って強盗することが分かったはずだ。「D」は、兄さんの指示では、直接包丁を持って、人を殺す役割だったが、兄さんに対して肯いていたので、私は、「D」が兄さんの指示に従って金融屋の中にいるじいさんを殺し、金庫の中の金を奪うつもりだと思った。被告人は、捜査段階において、以上のような趣旨の供述をしている。

(二)  もっとも、被告人は、原審公判廷における供述中で、本件においてIを殺害する旨の共謀が成立したことを否定する趣旨の、次のような供述をしている。すなわち、私は、Bから、老人を刺せと指示されたが、Dが必ずしも言われたとおりにやるとは限らないから、殺すとは理解しなかったし、事をやるのは自分たちだから、自分で何とかしようと思った。そして、私は、Dに、やることは自分たちがするので何とかすると話したが、Dは特に返事をしなかった。私たちが丁度玄関の所に行ったら、学生が二人立っていたこともあって、これを口実にやめることにしたが、それをBに話したら、Bは、自分たちと一緒に事務所の方に行き、二人の学生に何かを話し、学生がその場を離れた後、やっていいというようなことを言い、少し離れた所で、自分がチャイムを鳴らすまでずっと見守っていた。私は、相手を傷付けたり殺害したりすることは考えていなかったし、Dが本当に相手を刺すあるいは殺害するということは思わなかった。私は、Dに、殺さないでくれとまでは言っていないが、自分がドアを開けさせるから手を出さないでくれというようなことを言った。ただ、Dは返事をしなかった。そして、私は、Dが実際に包丁で相手の腹の部分を刺すのを見た際、もしDが二、三度刺したら相手が死ぬかもしれないと思ったので、Dが殺そうとしているのをやめさせようと考え、二階から足音が聞こえたから、二、三人降りて来るよと北京語でDを騙し、一緒に逃げた。被告人は、原審公判廷においては、以上のような趣旨の供述をしている(被告人は、当審公判廷における供述中でも、ほぼ同趣旨の供述をしている。)。

(三)  そこで、前記(一)掲記の被告人の捜査段階の供述と、右(二)掲記の被告人の公判段階の供述とを対比して、その信用性について考えるのに、被告人の捜査段階における供述は、その内容において、前記4(一)認定のような客観的な状況ないし事実経過に符合し、事態の自然な流れに沿うものである。また、Bの立てた本件強盗の計画及び指示の内容は、前記4(一)の(3)認定のように、DがIを刺してその反抗を抑圧した上で、被告人が、右事務所内に置かれ、あるいはIが所持していると予想される金庫の鍵を使うなどして、その中から多額の現金を奪い取るというものであったところ、同人については六〇歳くらいの年齢の者と聞いていたとはいえ、大声を出したり右事務所から外に逃れたりして救助を求めるなどの行動に出た場合には、右のような現金奪取の目的が達成できない事態も予想される状況にあったのである。その意味で、Bが被告人らに与えた指示は、Iを殺害することを含むものであったと理解するのが合理的であるところ、被告人の捜査段階における供述は、まさにそのような趣旨のものであって、十分に合理的かつ自然な内容のものである。のみならず、前記4(一)の(4)ないし(7)でみたように、Dの行った樋口に対する刺突行為の具体的態様その他客観的状況に加え、同(1)及び(2)認定のような、丙川商事の事務所における強盗を企てるに至った経過、本件当日に断念した現金輸送車からの現金強奪計画の内容、同(3)認定のような本件強盗に係る具体的な話合いの状況などを合わせ考えると、これら外形的状況から、被告人らの間で、本件においては、Iを殺害して金員を強取しようという趣旨の共謀が成立していたと窺えることと、被告人の捜査段階における供述はまさに符合するのである。したがって、被告人の捜査段階における供述は、十分に信用することができる。

これに対し、右(二)掲記の被告人の原審公判廷における供述をみると、まずもって、原審公判廷に至って、捜査段階における前記供述をなぜに変更するに至ったのか、この点、被告人は、何ら合理的な説明を行っていない。また、被告人の公判段階における供述を内容的にみても、被告人が、Iを殺害することを避けようと考えたことについて、Bに知られるのが怖いとはいえ、Dに対し、何らかの形で自分の考えを知らせようと努力したという状況もなく、その意味で整合性がなく、さらに、丙川商事の事務所から逃げ出した際の状況についても、Dに殺害行為を止めさせるために、二階から足音が聞こえた際、北京語で、Dに対し、二、三人で降りて来るよと嘘を言ったというのであるが、まことに不自然な内容である。したがって、こうした被告人の公判段階における供述は、被告人の捜査段階における供述と対比するまでもなく、それ自体としてこれを信用することは著しく困難である。

(四)  以上のとおり、前記4(一)認定の客観的な事実経過に、同(三)掲記のBの供述及び前記(一)掲記の被告人の捜査段階における供述を総合すれば、被告人は、丙川商事の事務所に金品強取のため押し入った際、B及びDとの間で、金員を強取するに当たりIを殺害しようという趣旨の共謀を遂げていたこと、及びDが文化包丁でIの右胸部等を突き刺したりした際、Dには、右共謀に基づき、Iに対する殺意があったことは、十分に肯認できるのである。なお、仮に、被告人においては、Bが文化包丁でIを突き刺したりした際、自分自身としてはIに対する殺意を失い、DがIを殺さないでくれればよいなどと考えていたとしても、金員を強取するに当たりIを殺害することにつき、DやBと共謀を遂げていたことに照らし、Dが殺意を抱いて、金員強取の目的でIに対する殺害行為に出たときは、被告人も、共同正犯として責任を負わなければならないことはいうまでもない。すなわち、本件において、被告人が強盗殺人未遂罪の責任を負わなければならないことは明らかである。

6  以上から結局、原判決挙示の原判示第二の事実に係る関係各証拠を総合すれば、原判決が罪となるべき事実第二として認定判示するところは、被告人が、B及びDとの間で、金員を強取するに当たり樋口を殺害しようという趣旨の共謀を遂げていたことや、Dが、右共謀に基づき、殺意を抱いて、文化包丁でIの右胸部等を突き刺したりしたことを含め、全て合理的な疑いを越えて認定することができるのであって、原審で取り調べたその余の証拠及び当審における事実取調べの結果を合わせて検討しても、原判決には所論のような判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認はない。論旨は、理由がない。

四  控訴趣意第二(量刑不当の主張)について

1  所論は、要するに、被告人を死刑に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であるというのである。

2  そこで、原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果を合わせて検討すると、本件は、平成元年二月ころマレーシアから来日し、土木作業員などをして働いていた被告人が、暴力団関係者であるBらと共謀の上、平成五年一〇月二七日ころから同年一二月二〇日ころまでの間、滋賀県、東京都及び群馬県において、合計四回にわたり、金員強取の目的で三人の者を殺害して、現金や腕時計を強取したり、同様の目的で一人の者を殺害しようとしたが果たさなかったりし、また、不法にけん銃及びこれと適合する実包を所持するなどしたという事案である。

3  本件各犯行につき、具体的にみると、次のようなものである。すなわち、

(一)  被告人は、B、Dらとの間で、滋賀県八日市市所在のC方から金品を強取するに当たり、同人が抵抗したり、指示に従わないような態度を取ったりした場合には、同人を殺害してでも金品強取の目的を遂げようという趣旨の共謀を遂げた上、平成五年一〇月二七日午後一〇時四〇分ころ、預かり物を届けに来たように装って、同人に玄関ドアの鍵を開けさせて玄関内に押し入り、同人にけん銃を突き付けて、同人を一階居間に連れ込み、同人を仰向けに押し倒して押さえ付けたりしたが、同人に大声を上げられたり抵抗されたりしたため、Dが所携の果物ナイフでCの左側胸部を一回突き刺し、さらに被告人が殺意をもって所携の包丁で、Cの右大腿部を一回突き刺し、その結果、そのころ、C(当時五三歳)を右大腿動・静脈切断によって失血死するに至らせて殺害し、同人の着ていた上着のポケット内にあった現金約一六〇万円及び同人の着けていたベルトバックル一個(時価約五〇万円相当)を奪ったほか、同人方を物色し、同人が所有又は管理する現金約一二四〇万円及び腕時計など物品四点在中の耐火金庫(時価合計約一五五五万円相当)を強取した(原判示第一の犯行)。

(二)  被告人は、B、Dらとの間で、東京都足立区所在の金融業を営む会社の事務所を襲い、その場にいる者を包丁で刺して殺害した上、事務所から現金を強奪することを共謀し、同年一二月一〇日午後四時五〇分ころ、借金の申込みに来た客を装って、事務所を看守していたその会社の取締役であるI(当時五六歳)に玄関ドアを開けさせ、Dと共に事務所内に侵入し、Iに対し、Dが殺意をもって、いきなりその背後から文化包丁で、右大腿部及び右胸部を数回突き刺したが、Iが大声を出したことなどから、事務所から逃げ出し、同人に対し、入院加療約二か月間を要する肝刺創及び右大腿刺創の傷害を負わせたに止まり、殺害の目的を遂げなかった(原判示第二の犯行)。

(三)  被告人は、Bとの間で、群馬県高崎市所在のゲーム喫茶の店長を殺害して金品を強取することを共謀し、同月一二日午前〇時四〇分ころ、ゲーム喫茶の店内において、その店の店長J(当時四〇歳)に対し、Bが殺意をもって、所携のけん銃でその背部に向けて弾丸を一発発射して命中させ、Jに第九、一〇胸椎損傷等の傷害を負わせて反抗を抑圧した上、同人が管理する現金約九万四〇〇〇円及び財布一個ほか物品一七点(時価合計約三万一五〇〇円相当)を強取し、平成六年一月三日、収容先の病院において、同人を脊髄損傷による急性呼吸困難によって死亡するに至らせて殺害した(原判示第三の犯行)。また、被告人は、Bと共謀の上、右犯行に際し、右ゲーム喫茶の店内において、けん銃一丁を所持し、これに適合する実包三発と共に携帯した(原判示第四の犯行)。

(四)  被告人は、Bらとの間で、東京都足立区所在のマンションに住むK方に押し入り、同人を殺害して金品を強取することを共謀し、平成五年一二月二〇日午前一一時半ころ、右マンションの同人の居室に無施錠の玄関ドアから忍び込んで侵入し、その場で、K(当時五九歳)に対し、被告人及びBがいずれも殺意をもって、同人が所携のハンマーでその頭部を数回殴打し、さらに、被告人及びBがKの胸部等を所携の出刃包丁で数回突き刺すなどし、よって、そのころ、その場で、同人を肺・肝刺創による出血性ショックによって死亡させて殺害した上、同人の所有する現金五万円在中の財布一個(時価約三〇〇〇円相当)、腕時計一個(時価約一〇〇万円相当)及び現金約一一五万円在中の据置金庫一基(時価約二万円相当)を強取した(原判示第五の犯行)。

4  右のように、本件は、被告人が、Bら共犯者と共に強盗殺人の犯行を繰り返し、被害者三人の生命を奪うとともに、現金合計約一五三〇万円及び腕時計、金庫など物品合計二七点(時価合計約一七一〇万円相当)を強取し、また、被害者一人に対しては、命を奪うには至らなかったものの、重傷を負わせ、なお一回の犯行に際してはけん銃等を所持していたという、極めて凶悪かつ重大な犯行である。そして、右3でみたように、原判示第二、第三及び第五の各犯行においては、被告人らは、当初から被害者らを殺害した上で金品を強取することを企て、実際に、右各犯行に際しては、各被害者に出会うや否や、直ちにその胸部等を文化包丁や出刃包丁で突き刺したり、その背中をめがけてけん銃を発射したりしているのであって、被害者らの人格を全く無視した、まことに残虐な犯行というほかない。また、原判示第一の犯行も、当初から金品を奪う目的で被害者を殺害しようと図ったものではないにせよ、被害者が抵抗したり大声を出したりした場合には、同人を殺害してでも金品強取の目的を遂げようという趣旨の共謀に基づき、実際に、被害者が金庫を開けることを拒絶したり大声を出して暴れたりしたため、被告人が殺意を抱いて、被害者の大腿部を包丁で突き刺すなどして、同人を殺害するに至ったものであり、実質は、原判示第三、第五の各犯行などと変わりはないのである。しかも、本件第一ないし第三及び第五の各犯行は、被告人らが、多額の現金等を一挙に奪うことができるというだけで、自分たちとは無関係の場所や相手に次々と狙いを付け、けん銃や出刃包丁等の凶器を準備した上、二人ないし数人の共犯者らの間で犯行の方法や役割分担等を詳細に打ち合わせて、各犯行に及んだもの(ただし、一回は未遂)であって、周到な準備に基づく計画的な犯行を行ったというべきであるほか、滋賀県、東京都及び群馬県という広域な地域で、二か月足らずの間に四回にわたって繰り返していることに照らすと、社会に与えた衝撃や不安の大きさにも甚だしいものがある。

そして、何らの落ち度もないのに、被告人らの突然の凶行によって生命を奪われた三人の被害者の無念さは、察するに余りがある上、同人らの遺族らは揃って、犯人らに対する極刑を希望している。また、原判示第二の犯行によって重傷を負った被害者においても、その傷害により、座骨神経を損傷し、歩行が不自由となる後遺症を抱えており、犯人らに対する厳重な処罰を望んでいる。右各被害者や遺族らに対し、被害弁償や慰謝の措置は、一切とられていない。なお、原判示第一、第三及び第五の各犯行によって生じた財産上の被害も、前記のとおり、現金のほか物品を合わせると、その被害額が合計三二〇〇万円余りという多額に上っているのに、その被害回復も全く行われていない。

5  ところで、本件各犯行における被告人の関与の状況等をみると、被告人は、いずれもBから誘いを受けて各犯行に加わったものであるが、原判示第一の犯行においては、Bの求めに応じ、D及びEの二人を誘って犯行に加わらせた上、自ら実行行為を担当し、Bに指示されたとはいえ、包丁を携帯し、同包丁を用いて被害者の左大腿部を突き刺して、同人に対し致命傷を負わせている。また、原判示第二の犯行においては、被告人は、同様にBの計画に従い、金庫を開けてその中の現金を奪い取る役割を担当し、まずは事務所内にいる被害者を殺害した上で金員強取を図ろうとして、Dと共に丙川商事の事務所内に押し入ったのである。さらに、原判示第三の犯行においては、被告人は、Bと共に、金品強取の目的でゲーム喫茶の店内に立ち入り、同人がけん銃で被害者を撃った際には、それを容易にするために被害者をBの近くにおびき寄せる役割を担当し、同人に言われたとはいえ、その場に倒れた被害者から、その着ていたズボンのポケットなどをさぐって、現金等が入った財布を奪い取り、さらにその後、再度右店内に立ち戻った際、なおも絶命せずに苦悶している同人の手から鍵束を奪い取っているのである。そして、原判示第五の犯行においても、被告人は、出刃包丁を携帯して、被害者の住むマンション内の居室にBと共に押し入った上、その場で同人の指示に従い、同包丁を用いて被害者の胸部を二回突き刺しているほか、Bらと共に現金在中の耐火金庫を運び出すなどもしているのである。このように、被告人は、いずれもBから誘いを受けて各犯行に加わったものであり、また、ほぼ一貫して同人の指示に基づいて行動していたものということができるが、実際の犯行に際しては、被害者らに対する殺傷行為及び財物の強取行為の双方につき、重要かつ不可欠な役割を担当し、積極的に実行行為に及んでいるのであって、決して従属的役割を果たしたのではない。加えて、被告人は、原判示第一の犯行においては現金約一三〇万円を、原判示第三の犯行においては現金約三万円などを、原判示第五の犯行においては現金約三五万円を、それぞれ分け前として取得し、合計約一七〇万円の金員を得ているところ、それらの金員は愛人関係にある女性が営む飲食店の開店資金や自分の生活費などに費消している。

なお、所論は、この点につき、被告人が、右女性の営む飲食店で、暴力団組員から絡まれたり暴力を振るわれたりするということが起き、Gに頼んで、こうした困った事態を解決してもらったことから、同人に恩義を感じていたばかりか、暴力団組員としての同人の力に対する恐れをも抱いていたものである。そして、被告人としては、本当は本件各犯行に加わりたくなかったにもかかわらす、Gに「俺の顔を潰すな」などと言われたことから、自分や右女性の生活に対する脅威を感じ、やむなく右各犯行に加わったものであるので、この点を量刑上考慮するべきであるというのである。そして、被告人は、原審及び当審公判廷において、右所論に沿う趣旨のことを述べているが、これに対し、Gは、Bに依頼されて被告人を原判示第一の犯行に誘った際、被告人を脅すようなことを言ってはいないし、むしろ、被告人はためらうことなく犯行に加わる旨答えたという趣旨の供述をしているのである。被告人の右供述とGの右供述を対比して、被告人の供述をそのままには信用することは困難であるのみならず、仮に被告人の述べるとおりであったとしても、被告人が本件各強盗殺人及び強盗殺人未遂の犯行に加わることを避ける方法がなかったものとは到底考えられないのであって、この点につき、それほど酌むべき事情があるということはできない。しかも、被告人が、右にみたように本件各犯行において、重要かつ不可欠な役割を担当し、積極的に実行行為に及んでいることに照らすと、Bの指示に逆らうことができなかったという事情があるにしても、被告人の責任の重さを大きく軽減する理由にはならないのである。したがって、右所論は、採用することができない。

6  以上から結局、本件の犯情はよくなく、被告人の刑事責任は極めて重大であるといわなければならない。

7  もっとも、被告人に有利な事情も存在する。すなわち、原判示第二の犯行においては、被害者が生命を失うに至らなかったこと、被告人が本件各犯行に加わったのは、Bから誘いを受けたことによるものであり、被害者らに対する殺傷行為等もBの指示に基づくものであったこと、被告人が、現在では本件各犯行に及んだことを反省後悔していること、被告人が、家計を助けるために母国を離れ、我が国に働きに来ている者であること、被告人の、母国に住む母親が、家計が苦しいにもかかわらず、渡航費用等を知人に援助してもらうなどして、原審公判廷に出廷し、被告人に対する寛大な処分を希望する旨述べていること、被告人が、未だ若年である上、我が国における前科や前歴を有しないことなど、所論指摘のような事情は、被告人に有利に斟酌できるものである。

8  しかしながら、これらの被告人に有利な事情を最大限に考慮し、かつ、死刑が、人間存在の根源である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり、まことにやむを得ない場合における究極の刑罰であって、その適用には特に慎重を期すべきであることに照らしても、とりわけ、これまでみたとおり、金品強取の目的で三人を殺害し、一人の生命を奪おうとして果たさなかったりしたことの計り知れない罪の重さ、結果の重大性、被害者の胸部等を包丁で突き刺し、あるいはその頭部をハンマーで多数回にわたって殴打したり、被害者をけん銃で射殺したりしたという、本件各犯行の手段方法の残虐性及び凶悪性、さらには、被告人が本件各犯行に加わるに至った経緯や動機に酌むべき事情があるとは到底いえないこと、被告人が、被害者らに対する殺傷行為及び財物の強取行為の双方につき、自ら、被害者らの身体を包丁で突き刺すなど、重要かつ不可欠な役割を果たしていること、被害者らの遺族や被害者本人の処罰感情も極めて厳しいこと、財産的被害も決して軽視することのできないほど大きいものであること、本件各犯行の及ぼした社会的影響が甚だ大きいことなどを考えると、被告人の負うべき刑責は余りにも重く、したがって、被告人を死刑に処した原判決の量刑は、まことにやむを得ないものであって、これが重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は、理由がない。

五  よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用は、同法一八条一項ただし書を適用して、被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本時夫 裁判官 高橋 徹)

裁判官 服部 悟は、差し支えのため署名押印できない。

(裁判長裁判官 松本時夫)

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